指導者も変わる時
勝田大介(千葉県四街道市立旭中学校)
中学の部活動が変わろうとしている。勝田先生は全国大会経験、初心者指導にも定評がある。この数年、学校現場を離れて見えてきた話を発信するコラムです(2022年4月から旭中に復帰)。
10.キャッチボールにはすべてが詰まっている
(旭中編第7回)
今回は、夏の大会前の練習試合で確認していったことについてまとめていくが、その前に普段のキャッチボールについて書こうと思う。
(1)キャッチボールについて
赴任した当時は、30~40分くらいかけて選手たちはキャッチボールをしていた。短い距離から軽く投げて少しずつ距離をとっていく。塁間まで離れても、多くの選手が投手のようにゆったりとしたフォームで山なりのボールを投げている。やがて、60メートルくらい離れての遠投となる。投球間隔が長く、ゆっくりゆったりとした時間が流れていた。
その現状を受け、まず、キャッチボールの捉え方について話をした。
「肩慣らしではなく、実践練習だ」と伝え、初めから最後までどのように取り組むのかを細かく話した。相手との距離によって場面が違うことを伝えていった。以下、距離ごとにまとめる。
① 塁間の半分程度
(あ)ランダウンプレーをイメージする。捕球をしたら、すぐにボールを持ち替えて投げる。足を動かす等のポイントを伝えた。
(い)内野の前進守備のバックホームをイメージする。タッチしやすい場所へ投げること、捕球する際にタッチまですることを伝えた。
② 約18メートル…投手は、投球練習をする。
(あ)ワインドアップとセットポジションのどちらかで投げる。
(い)変化球の練習をする。
(う)クイックの練習をする。
(え)各塁への牽制練習をする。
私は、平日の練習で投手に投球練習を行わせない。キャッチボールで毎日投球練習をしていることと、プルペンで投げることとバッターに向かって投げることは別のことと捉えているからである。ブルペンで調子が良くても打ち取れないことがある。また、逆もしかり。別の理由としては、練習時間が短く、バッテリーのみ別メニューの時間がとれないこともある。
③ 塁間(塁間より少し遠い)…内野手の送球練習のイメージをさせる。
(あ)相手の顔のあたりに投げる。
(い)相手の胸のあたりに投げる。
(う)相手の腰から膝のあたりに投げる。
④ 内野と外野の芝の切れ目…カットプレーをイメージして、ワンバウンドで正確な送球をさせる。
私は、この距離を特に重要だと捉えている。毎日、内野と外野の切れ目のラインを引くようにして、選手に意識させていた。内野手が、外野からの返球を受け、バックホームをする際の一番遠い距離をこのラインだと決めていた。このラインから、確実にワンバウンドでバックホームできる。ストライク送球ができることを内野手に必要な送球技術だと何度も選手に伝えている。
例えば、左中間に打球が行き、深い位置からセンターがショートへ送球する。バックホームの場合は、ショートは、内野と外野の切れ目のラインに位置取る。センターは、2バウンドでも3バウンドでも良い。できるだけ速い球をショートへ投げる。ショートは、自分の捕りやすいバウンドで捕り、正確なバックホームをする。この時、センターの送球は、多少ずれてもかまわないが、ショートのバックホームがそれてしまうと、アウトが取れる確率が下がってしまう。このように、内野手は、常に同じ距離感から、正確な送球のできる力が求められる。肩の強い選手がそろうとは限らない中学軟式野球では、時には、投手がカットプレーに入ることも必要であると考えており、私のチームでは、送球に不安がある野手の場合は、投手がカットプレーに入ることもある。
以上のように、キャッチボールでは、常に試合で起こりうるプレーを想像させながら行っている。個々に行っていることは違っており、時間をかけてやっていることがその選手が課題と感じているプレーなのだということがわかる。キャッチボールをしている時は、個々の課題に対してのアドバイスを個別に行い、必要な時は、全体を集めて指導・助言をする。毎日行うキャッチボールで守備の練習をすることは十分にできると考えている。
(2)練習試合で確認していったこと
練習試合では、練習をしたことの確かめと現在の力を図ることを主な目的とした。内容にこだわると言っても勝った負けたは選手たちにとっては気になるところなので、どのような相手とどの時期に試合をするか、どのような結果が予想されるのかを想定しながら、練習試合の相手校を決めていった。練習試合では、フリーで打つ・守る場面がもちろん多いが、ランナーがいる場面の攻撃や守備では、次に起こりうるプレーを確認しながら練習で行ったことができたか、どうすればできるようになるのかを確認していった。ひとつひとつのプレーに意図を持って取り組んでいくと、自然と練習と試合がリンクしていくようになってきた。
5月~6月の練習試合を通して、戦える力がついてきた。6月末になり、自分たちのペースで試合を進められることが多くなってきた。とても良い展開なのだが、選手の気持ちも高ぶってきて、それに伴う心配事も出てきた。
7月中旬の夏の大会に向けてあと2~3週間というところ、家で素振りや走り込みを意欲的に行う選手が増えてきた。その影響か、プレーに疲れが見えるようになってきた。そういう時の怪我が一番怖い。梅雨が明け、気温も上がり、熱中症の心配もある中で、選手の練習量を上手に減らしていくことが必要となってきた。
大会前の最後の練習試合、習志野市立第七中学校に、5回0-7のコールド負け。こちらのやりたいことは何もできず、しっかりと打たれて負けた。この負けでなんとなく勝ち続けていたチームに喝が入った。私は、相手チームの先生に「ありがとうございました。申し訳ない試合になってしまいましたが、これでうちは、夏勝てそうです。」と言ったのを覚えている。1球の怖さ、自分たちの中に知らず知らずのうちにあった慢心が……。チーム全体がこの負けで引き締まり、最後の大会へ向けて戦う覚悟ができていった。
次回は、夏の大会についてまとめていく。
(第11回に続きます)
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(2023.06.15 初稿執筆)
1. 中学野球の魅力
先日、スーパーで買い物をしている時にある女性から声をかけられた。前任校野球部の保護者の方だった。「先生の声が懐かしい。あの頃が親も子も楽しかった。」と3年前の話を……。熱い想いが沸き上がってくる。具体的に何をしたいとか、何をしようとか、はないのだが、あの野球をやっていた頃の自分に一瞬戻ったような気がした。
教員になって18年経つ。小学校の採用で3年間、その後、大山口中で7年、四街道旭中で5年、計12年間野球部の顧問をさせていただいた(今は、県行政勤務)。自分の指導するチームがなくなり、息子の少年野球の応援に行ったり、少年野球連盟の審判部に入ったりしている。2021年度からは、その息子も中学生となり、中学校の外部指導者としてお手伝いをしている。今度は今までとは違う角度で中学野球と関わっていくことになった。
我々教員は、ある程度の年数が経つと異動があり、必ずしも野球部の指導ができる学校に異動できるわけではない。それぞれが行った先で、任されたことをやるしかない。運よく野球部の顧問になっても、その学校が歩んできた歴史、文化、地域性を無視して、自己流を貫くことは歓迎されるものではない。
自己の指導方針は核とするものがあるべきであるが、その学校の生徒、保護者のことをよく考えながら、指導をしていかなければならない。力のある指導者の方を見ていると、どの学校に行っても似たようなチームを創り上げているが、お話をさせていただくと、そこに至るまでの過程で、想像以上の労力を費やしている。今までと同じだと見えることでも、ひとつひとつ「変化」をしている。先日、ZOOMの研修会があり、今後の指導者に必要な力として、「変化を恐れない」という点を挙げさせていただいたが、まさにそれである。
次からは、中学野球の魅力の一つである「指導者が変化を恐れない」ということについて書いていこうと思う。
(2022.02.18 初稿執筆)
2.「変化=学び」
「指導者が変化を恐れない」ということが大切だと思う、ということを第1回で述べさせていただいた。言い換えると、「指導者が常に学び続ける」ということになる。
世の中が大きく変化している。野球界の常識も数年経つと変化する。自分が子どもの頃に教わったことを当たり前のように教えていると、時代遅れだったり、間違った認識の指導だったりする。
野球指導の第一線から離れ、外から学童野球、中学野球の指導を見るようになって感じることが多くある。新しいことを学び、指導をアップデートしている指導者は大変魅力的である。しかし、教わっている子ども、保護者は「現在の」その人を見ている。過去の実績がどんなに素晴らしくても、話題はいつも「今のこと」になる。その指導者も過去の話より、今の話をする。大切なことは、目の前の子どもをどう伸ばしていくか、可能性を広げていけるかである。過去に積み上げたものは、今や未来を豊かにするための力となるべきであろう。
「変化=学び」という視点で
①コロナ禍での指導の変化
他県の若手指導者の話である。先日、彼のチームのZOOMミーティングに講師(相談役)として参加させていただいた。選手たちの質問に私が答えるという形式のミーティングであった。コロナ禍で練習ができない時も、自宅からのWEBミーティングであったり、技術指導であったり、効果的にタブレット等を活用している。対面指導が厳しい中で、できる形を見出し、継続的に指導している。
②有名指導者の技術指導の変化
先日、バッティングの指導について実績のある有名指導者の方に具体的に教えていただいた。5年前にも同じように教えていただいたが、指導している視点が全く違う。では、違うことを指導しているのかというとそうではない。以前は、手の使い方を中心に指導されていたが、今は、踏み出した足の動きを特に重視されているような印象を受けた。
視点が違うだけで、指導の軸のブレは全くない。お話をしていると、様々な方から学ばれていることがわかる。学びを自身の指導に効果的に取り入れ、さらにご自分の言葉として発信されている。指導の内容をはるかに超えて、学びの姿勢に感銘を受ける。
「変化=学び」→『ゴール』を明確に
「指導の軸がブレない」ということは大切だと思う。学んだものを何でも取り入れていくことが大切なのではなく、目指すゴールをイメージすることで、必然的に何を取り入れるかが決まっていくのではないかと考える。
以前、若手の指導者に「いつまで道具をそろえる指導をしているの?」と言ったことがある。野球の具体的な指導よりも、挨拶、返事、道具の整頓等の指導場面が多いと感じたので……。すると、その指導者から「そろえさせなくてもいいんですか?」と返された。
「では、道具をそろえたら勝てるのか?」「道具をそろえる意義は理解されているのか?」と聞いていくと、十分な返答が得られない。その意義については、様々な考えがあり、どういう視点であってもかまわないと思うが、子どもにとって「できない現状」があり、さらにその意義・意図を感じていないならば、「道具をそろえる=指導者に叱られないため」になってしまわないかと思ってしまう。
私たちは、道具をそろえるために野球をやっているわけではなく、それは通過点に過ぎない。目標(ゴール)は、もっと先にある。「野球で〇〇したい」が野球の目標であり、目指すべきところである。その過程に、様々な指導があることを意識していくと、子どもへの言葉掛けであったり、関わり方であったりが、より違和感のないものになっていくはずである。また、指導の浸透度も加速度的に良くなると想像できる。
それは、核心にせまる指導なのか、通過点の指導なのか。
次回は、自分自身の野球指導について書いていこうと思う。
(2022.02.26 初稿執筆)
3.本気で夢を見ることができる中学軟式野球
第3回からは、自分自身の野球指導について振り返る。一般論ではなく、私の考えなので、読んでくださっている方からは、「そりゃ違うだろ!」と批判もあるかと思う。否定されると、筆者としてはシンドイところもあるが(笑)、「違う」と思うことが、真実に迫る第一歩と考えており、読んでくださっている方にとっては、プラスになることであろう。「こうやって野球をとらえている人もいる」くらいで読み進めていただければ幸いである。
中学生の野球というと、時に、「シニア・ボーイズVS中学軟式」という構図を思い浮かべる人もいるが、使っているボールが違うこと、ある程度「覚悟」を決めて選手が集まるのが、シニア・ボーイズだと考えると、「VS」という構図にはならないかなと思う。私にしてみれば、それぞれの選手が、自分が選んだチームで、一生懸命に練習し、野球の技術を高め、野球をもっともっと好きになってくれれば、と思うのみである。
中学軟式野球の魅力は、ある程度の投手力があり、安定した試合運びができる等、いくつかの要素がそろえば、どの学校でも県大会ベスト8くらいまでは狙える可能性があると思う(わが千葉県では)。また、どの学校にも初心者がいるのが当たり前の時代である。お互いの学校の戦力を比較した時に、スタート時点ではそれほど差がないのである。
勝つためには、(1)投手力を高める(2)戦い方を覚える(3)初心者の技術指導、が重要な鍵となってくる。
大山口中学校時代
最初に赴任した大山口中では、初心者がいなかったので、(1)(2)について特に力を入れた。
(1)投手力を高める
練習試合では、投手を希望する選手は、全員登板の機会を作った。その中で、勝負のかかった試合で通用する投手を見出していった。基本的に軸の投手を2人とし、3イニング、4イニングの継投の流れを作った。地区の大会では、ダブルヘッダーがあること、競った試合では延長戦が予想されることがあり、エース投手を4回から登板させる流れを作った。このため、2試合を同じ継投で戦うことができた。
2番手投手が先発するため、連打連打で相手打線につかまってしまうと、初回のノーアウトであっても迷わずエースをマウンドに上げることができた。エースを途中からマウンドに上げる理由は、もう一つある。「特別延長戦」に備えてという理由である。当時は、「0アウト満塁から、継続打順」で(現在は、0アウト1・2塁)行っていた。特別延長戦に突入すると、それまでの試合展開とは全く関係のない試合となる。私は、選手には「サッカーのPK戦と同じだ」と言っていた。内野ゴロに打ち取っても3塁ランナーのスタートが早ければ、点が入る。確実にアウトを取るためには、「三振、内野フライ」を期待する。やはり、空振りをとることができる投手がマウンドにいてほしい。
(2)戦い方を覚える
「1アウト2・3塁」、「0アウト2塁」等、アウトカウントとランナーの位置によって、どのように攻めていくのかを学ぶためにケース練習を多く行った。ランナーはどのように動くのか、バッターは、どこにどのような打球を打つのか、そしてランナーはどの打球で、そのように動くのか――できるだけ多くのプレーをパターン化し、チームで共有していく。「しなければならない」より「自分たちには何ができるのか」という視点で、試合で可能な攻め方を見出していく。平日の放課後の練習は、私がグラウンドに出られない時も多い。その際は、練習後に選手から様子を聞いて、攻め方をまとめていく。ここで大切なことは、目的と手段をきちんと分けることである。目的は、「点をとること」であり、ヒッティングやバント等はそのための手段である。それを選手に理解させなければならない。
このやりとりを年間通して続けていくと、「0アウト2塁、バッターAくん、ネクストバッターBくん、ランナーCくん」であった場合、「1点を取りに行く」という目的に対しての手段や「2点を取りに行く」ための手段が概ね決まってくる。試合を通して、選手の認識とのズレがないかを確認していく。
大会で監督が出すサインは、これから行うプレーの確認であり、選手からしてみると、頭に浮かんだ作戦の「答え合わせ」のようなものである。先の手を考える将棋のように、チームとしての攻め方もボールカウントによってだいたい決まっている(そこまで練習試合を通して詰めていきたい)。だから、サインを出すタイミングは早い。捕手が投手にボールを返す間には、サインが終わっている。
鍛えられているチームほど、一球一球の後に相手選手や監督が私のサインを見る。しかし、私はダミーのサインを相手チームに対して出している。それは、騙すというより自チームの選手を守るという意味合いが強い。
不思議なことに「エンドラン、スクイズ」等、ランナーとバッターが共働する作戦の場合、サインが出た後に当該選手が余計な動きをすることが多い。余計な動きとは、ランナーがリード幅、バッターがBSOボードを目視したりするなど、多数ある。自チームが守っている時は、そのようなちょっとした変化を見逃さないように具体的に指導している。要するに、こちらが攻撃をしている際、相手選手の注目が私に集まっている時に、そのような余計な動きが出てしまうのなら、相手に作戦を悟られるリスクが低くなるのではないかと考えている。
2013年3月に出させていただいた全国大会(文部科学大臣杯第4回全日本春季軟式野球大会)の1回戦。2アウト3塁、バッターは4番(右打者)、右投手で、三塁手はベースから少し離れて守っていた。カウント2ボール2ストライクから、3塁ランナーの土屋が投球の際にスタートを切り、ホームスチールで先制した。これについて取材を受けた際、「どうしてホームスチールをしたのか?」と問われ、私は、「決まるタイミングだったからサインを出しました」と答えている。
確かに……一瞬の判断であったが、私は迷わず、バッターに「待て」のサインを出し、土屋を走らせた。土屋もこのタイミングを理解しており、お互いに目が合って、スタートを切った感覚であった。2ボール1ストライクから、バッターが真後ろにファールを打ち、カウント2-2になった。かなりの確率でアウトコースに大きく外す、変化球であるだろうとの予測が、私にもランナーの土屋にもできていた。また、バッターの加納も予想される配球や展開を感じ、投手の投球に合わせて、左足を踏み出しながら、捕手からランナーの動きが見えないようにサポートしていた。
私は、このようなプレーのことを“演劇”だととらえている。
次回は、四街道旭中時代について触れることにする。
(2022.03.02 初稿執筆)
4.初心者指導が野球部存続のカギを握る
(旭中編その1)
第3回では、「勝つためには、(1)投手力を高める(2)戦い方を覚える(3)初心者の技術指導が指導の鍵となってくる」ということで、大山口中時代について書いた。今回は、四街道旭中(以下、旭中)時代について書きたいと思う。
大山口中時代は、少年野球をやってきた選手が入部していたため初心者の指導については、あまり考えたことがなかった。旭中では、部員集めに苦労し、初心者の指導が野球部の存続にとって大きな鍵となった。旭中時代については、初心者の技術指導、チーム作りという視点で書いていく。
私が旭中に赴任した当時、3年生8名、2年生1名の部員9名であった。そこに1年生5名が入部しスタートした。赴任することが決まると、3月末に前任の監督(20代前半の講師)にチームの様子を聞いた。スコアブックを見ながら、ひとりひとりについて詳細に話を聞いた。それまでの練習方法、試合の頻度、選手起用……と一通り。その中で、「なぜ、投手は四死球が多いのか?」「なぜ、大量点をとられて負けるのか?」というあたりが気になって質問したことを覚えている。また、どうやって点を取るのかと聞くと、チームとしての攻め方が確立していないことがわかった。まずは、選手の様子を観察し、夏の大会までの3か月の鍛え方を考えていくことにした。
4月1日、まだ野球部の顧問として挨拶をしていないので、職員室(2階)から、練習を眺めていた。キャッチボールに1時間程度かけている。練習の合間にベンチに座っている時間が長い。その他、午前中4時間程度の練習の中で、活動時間(体を動かしている時間)が短いこと、活動内容も少ないこと、待っている時間が長いこと等、気になることがいくつもあった。だが同時に、希望の光も見られた。ほぼ全員が、40メートル程度をきちんと投げられる。バットスイングも悪くない。走る姿もバランスよく安定している。なのに、どうして勝てないのか? 何に原因があるのか? 近隣の学校に大差で負ける理由は何なのか? を考えながら数日間眺めていた。
選手がいない時に、部室に行き、練習道具を確認した。ボールが50球程度、捕手のプロテクターやバッターのヘルメットは、破損箇所があり、新しいものとの交換が必要であった。集球ネットも2つくらいであった。選手の力を高めていくために、練習に必要な道具の購入が必須である。ただ、学校からもらう部費も少額であり、保護者の方からの集金もなかったので、現実的に道具を購入することは簡単ではなかった。当時、解禁になっていたビヨンド系のバットは1本もなかったので、使っている選手は誰もいなかった(のちに、保護者会を開き、毎月集金をすることになり、道具は少しずつ揃えていくことができた)。
まずは、バッティングセンター(10件くらい)に片っ端から電話をして、使用済みのボールを譲ってもらえないか交渉した。ちょうどボールの交換をする時期であったところからは、ボールをもらうことができた。これらは、バッティング用として活用した。チームを持って3年後くらいには、このボールが2000球くらいにはなっていたと思う。名刺を持ってバッティングセンターを回り、使用済みボールが出たら、すぐに電話をもらえるようにお願いしていった。
4月3日、たくさんのボールを持って、グラウンドに行き、選手に挨拶をした。目標を聞くと、“市内で優勝したい。秋に優勝した学校(秋の大会はコールドで負けている)に勝ちたい。”と話していた(市内と言っても5校しかない。トーナメントで2、3回勝てば優勝である)。
チームとしての目標を高くすること、目標とする市内優勝校と競った試合ができるようになること、これが監督としてまずやるべきこととした。3年生は、学年の中でも運動能力の高い生徒が野球部に集まっており、十分戦うことのできる力を備えていたため、選手の認識以上に難しい目標ではないとは思っていた。
次回以降で、春の大会で準優勝するまでの約1ヵ月の取り組みについて、書きたいと思う。
(2022.03.10 初稿執筆)
5.初任監督が最初の1ヵ月で取り組んだこと
(旭中編その2)
第4回では、2014年に旭中に赴任して、野球部の選手と出会い、目標を確認するところまで書いた。その続きを書こうとしていた2022年4月、再び学校の現場に戻ることが決まった。着任して2か月半、新しい職場の学校業務忙殺されるなかで、コラムの続きを書くことができずにいた。今回からは、8年前に私が監督・顧問として取り組んだ、旭中の選手との関わりについて具体的に書いていく。
まずは、こちらから練習メニューを提示するより、選手たちがどのような練習をやりたいのか(やってきたのか)を確認することから始めた。練習中は、なるべくベンチから様子を眺めているようにして、口出しはしないようにした。練習の合間に選手に「この練習は何のためにやっているの?」「どうして声を出さないの?」等、私が疑問に思ったことを聞いていった。
私は他校からやってきた人間で、選手たちにしてみれば、旭中野球部として取り組んできた歴史がある。それを私流に変えていくよりは、彼らの流れに私自身が乗りながら、よりよい方向へのアドバイスができればよいと考えていた。数日の練習で、全体や個別で、アドバイスを加えながら、練習の密度を濃くするように努めた。
赴任して初めての土曜日に練習試合が入っていた。電車に乗っての遠征。スタメンのメンバーや打順は、今まで通りで行い、簡単なサイン(盗塁、エンドラン、バント、スクイズ程度)を決め、試合に臨んだ。試合に慣れていないせいか、道具の準備やシートノックの動きの緩慢さ等、気になることはたくさんあった。しかし、それをひとつひとつ指摘するよりも、どうやったら試合で勝てるのかに焦点を当てながら、選手たちと過ごすことが今やるべきことだと頭に入れて試合を始めた。
曇り空で少し雨も降り、お互いに動きが鈍いなかでの試合だった。0-0で進んでいく。旭中投手の球はよく、相手打者にボールをとらえられることはほとんどない。しかし、初めてランナーを出したところから、投球のリズムが崩れ始めた。タイムをかけ、全員をマウンドに集め、やるべきことを確認した。
大会だと1試合に3回のタイムしか許されないが、練習試合なので、相手の先生に断って、何度もタイムを取り、確認する機会を持たせてもらった。確認したことは単純なことで、「バントをさせて、ファーストでアウトを取ろう。2塁ランナーを刺せそうでも、ファーストで良い」や「牽制をしないで、プレートを外すだけでよいので、それを必ずやること」等である。あとは、私がベンチからやるべきことを大声で話していた。ランナーがたまることもあったが、運よく相手の得点を0に抑え、こちらは1アウト3塁から外野への犠牲フライで1点を取った。結果、1-0で勝利し、選手たちにはガッツポーズをしている者がいたり、勝ったことを不思議と感じているような者もいたのを覚えている。
試合をやってわかったことは、やはり選手個々の能力が高いことである。攻撃では、積極的にバットを振ることができる、盗塁ができるということがわかった。守備では、守備範囲が広くフライを処理することができる、打ち取った当たりをアウトにすることはできる、ということがわかった。細かいミーティングはやらずに、その日はなるべく早く解散した。言いたいことは山ほどあったが、選手たちが受け入れることができる範囲にとどめようと、私自身の、はやる気持ちには自分でストップをかけていた。
4月末に市内大会が控えており、1回戦の相手は、選手たちが目標にしている学校(秋はコールド負けをしている)であった。選手たちがどう思っていたのかはわからないが、ポイントを絞って指導していけば、競った試合ができるかもしれないと、私は練習試合を通して感じていた。
ポイントとなることは、いくつかあった。特に守備面について取り組んだことを以下にまとめる。
≪投手≫
①苦手なカーブを打者ひとりに1球は使うこと(どうしてもストレートが中心になってしまうので)。
②セットポジションの長さを、1秒・3秒・5秒の3パターンにして、それらを組み合わせること。
③牽制を入れて、バッターのタイミングをズラすこと(ランナーを刺すための牽制ではない)。
≪捕手≫
①二盗は、ワンバウンドで投げること(捕手は、捕ってから投げるまでが速かったこと、低い送球が得意なこと、ノーバウンド送球を狙うとコントロールが安定しなかった、ということから)。
②ランナーが飛び出しても投げない。偽投もしない。ただ見るだけ。
③ボール2つ外、ボール4つ外の球を意識的に使うこと。特に、投手が苦手としているカーブは、ボール4つ外あたりに投げさせること。
→カウントがボールになっても良いという気持ちで投げるので、意外とキレの良い球が投げられ、空振りがとれるようになった。
④0アウト、1アウトランナー3塁のケースで、スクイズやエンドランを外すために、外にボール球を投げること。
≪投内連携≫
①バント処理の範囲を決め、なるべく投手が処理をするようにすること。
②ファーストは、なるべく打球処理をせず、ファーストベースでのプレーに専念すること。
≪内野手≫
①ファーストまでの送球は、すべてワンバウンド送球をすること(確実にアウトを取ることを優先する)。
②ショートバウンド捕球の練習を繰り返し行い、前に出て打球を処理することへの意識や意欲を高めること。また、技能を向上させること。
≪外野手≫
①後ろから前に出てきて、フライの捕球をすること。
→外野の上を抜かれると長打になるので、なるべく後ろに守らせる。
②内野手までの送球は、速さよりも正確性を求めること。
他にもポイントとしたことはあるが、このあたりを中心に、選手に話し、練習や試合の中で取り組んでいった。挨拶、返事、道具の扱い、ユニフォームの着方、攻守交替の緩慢さ等には、ほぼ触れることなく、野球の技術を教えることだけに意識を注いだ。選手たちにも、「練習でやったことが試合でできた」と強く感じてほしいと思っていた。
次回は、攻撃面でのポイントから市内大会までを書くことにする。
(2022.06.16 初稿執筆)
6.はじめての公式戦・市内大会
(旭中編その3)
第5回では、守備のポイントまで書いたので、第6回は、攻撃のポイントと市内大会までを書いていく。
≪攻撃のポイント≫
① 振りテストを行い、正しいスイングを身につけること(インパクトの瞬間に、鋭く音が鳴るようにする)→インパクトの瞬間に音が鳴る=自然と正しいフォームになっている。
②バント練習を毎日必ず行うこと。その際、打球の方向を意識させる(一塁線、三塁線から3メートル以内にボールを入れる)
③ゴロ打ちの方法を教え、実践すること。
④積極的に盗塁すること
攻撃については、あまり細かいことを伝えていない。練習では、バッティング練習を多く行った。バントやゴロ打ちもやるが、基本的には遠くに飛ばすこと、強く打つことを意識させて、取り組ませた。三塁線からライトのフェンスまで約80メートル。フェンスオーバーを目標に、前から投げた球やトスをした球を打つことを繰り返した。攻撃については、短期間で大きな変化は望めないので、選手たちがのびのびとプレーをしてくれればと……。
大会前には、今までに交流のあった武田尚大先生(現:川口市立芝東中学校監督)や小木田信人先生(現:越谷市立栄進中学校監督)が練習試合に来てくださった。挨拶、返事、道具の扱い、グラウンドでの素早い動き、声の大きさ、具体的な指示の声、取り組む姿勢……と、プレー以外の面で生きた教材として選手たちに教えてくれた。また、選手同士の交流も行い、自チームの選手たちは刺激をもらった。
いよいよ市内大会が開幕した。はじめての練習試合と似たような曇り空であった。前回まで、コールドで勝負が決まっていたので、相手チームとしては、負けるはずのない相手との戦いになる。正直、10回対戦して1回勝てるかどうかの相手であり、こちらとしては負けて当然であり、怖さはなかった。
試合では、使えるタイムをすべて使った。攻撃においても守備においても、プレーの前にやるべきことを確認しながら試合を進めた。外野手は、フェンス近くに守らせ、頭を越されないように気をつけさせた。何本か相手チームの大きな当たりが飛んだが、すべて外野手が捕球し、アウトを重ねた。
試合中、相手チームの声が気になっていたようで、その点については全体に対処法を話した。ヤジがあったり、マナーが悪かったりすることは一切なかったが、やはり強い相手からの声は少しのことが選手たちにとってプレッシャーになったようである。
相手の声が自分たちのプレーに影響しないように、自分たちの動きを相手の声に影響させるように促した。例えば、守備でランナー3塁のピンチの時、投手はわざとプレートを外して、バッターとの勝負を嫌がっているような表情を見せる。すると、相手チームから、味方をさらに応援する声が出る。当たり前のことであるが、こちらの動きで相手チームの雰囲気が変化する。「いいバッターだよ! 外野気をつけろ!」と声をかけると、相手バッターは力が入る。外の変化球を空振りすると、「気をつけろ! いいバッターだ!」とまた声をかける。自分たちの声で相手やゲームを動かしていくことを学ぶ良い機会となった。
大切なことは、その場その場でやるべきことを間違えないことである。ストレートが得意なバッターには、変化球で勝負する等である。自分たちが試合を動かしているという意識で常にプレーを進めていくことで、選手たちはベストを尽くせたのではないかと感じた。
終わってみると、2-0での勝利。大きなライトフライを捕球して、ガッツポーズをしていたライトの選手の姿を覚えている。
春季大会は、決勝まで進み、あと一歩のところで負け、準優勝となる。選手たちは力以上のものを発揮し、ひとりひとりの顔つきが凛々しくなってきた。負け方も教科書通り、当たり前のプレーができずに負けた。だからこそ、基礎・基本の大切さを伝え、その後の練習につながった。大会でやっと勝つことができた喜びは一瞬、「まだまだこれから」という意欲の方が高くなっていった。
(2022.08.20 初稿執筆)
7.練習内容の精度が上がった夏の大会前
(旭中編その4)
コラム第3回からは、自身の野球指導を振り返っている。第3回は大山口中時代、第4回からは、四街道旭中時代である。
今回は、春季大会準優勝から夏の大会までのことについて書く。
4月の後半から7月まで多くのチームと交流させていただいた。選手たちにとっては、監督の指導を受けるよりも、同じ中学生を見て、対戦して、その質の高さを肌で感じることが一番の学びだと、私自身も強く感じることができた3か月だった。
4月末、江戸川区立上一色中を招いて練習試合を行った。左バッターが何発かライトのフェンスオーバーを打ち、ボールが林に消えていった。今までに見たことのない中学軟式野球に触れた。選手たちは、自分たちよりも数段上の野球を観て、自分たちの立ち位置をしっかりと意識したようであった。その後は、どこに勝ちたい、優勝したいというよりも、ひとつひとつのプレーを身につけたいという意識に変化していったように感じた。5月からは、練習内容の精度が上がっていった。
しかし、本腰を入れて活動を進めようとすると、練習時間の使い方が大きな課題となった。決められた時間の中で、効率的に活動をするためのアプローチが必要となった。平日は、朝練習(1時間程度)、放課後練習(2時間程度)があったが、時間内の活動が十分に行えていなかった。また、土日については、練習試合の前後の使い方が定まっていなかった。これらの点についての整理が急務であった。
平日の朝練習では、準備や片付けに時間がかかり、実際の活動時間が短くなっていた。野球部の道具が入っている倉庫は、グラウンドのバックネットの対面の位置にあり、直線距離でも150メートル以上ある。少ない部員で多くの荷物を運ぶにはかなりの時間を要した。そこで、朝練習では、ティーバッティングを行うことにした。ティー用のボールは、バックネットの後ろに置いてあるので、自分が使うバットのみ倉庫から持ってくれば練習ができる。簡単にストレッチをすれば、すぐに打ち始めることができる。片付けもボール拾いのみである。様々なティーバッティングの方法を伝え、毎日朝はバットを振る時間とした。
放課後練習では、練習の開始に時間がかかるということ、練習を早退する生徒が多いことが課題であった。開始時刻については、クラスでの帰りの会終了後、15分後を目安とし、昇降口からは、アップも兼ねてグラウンドまで走ってくること、必要な練習道具の指示は朝のうちに伝えておき、準備を効率よく行うようにしていった。また、道具の準備を確実に行うことよりも時間で始めることを重視して、時間になったら練習を始めるようにした。キャッチボールで肩をつくる、バント練習等、個々やグループで終了時間の差ができるので、その差を利用して足りない道具の準備をして、効率が良く練習を進めるようにした。
練習のはじめはメンバーがそろうが、1時間くらいすると早退をする選手が出てくる。「塾(習い事)があります」がその理由の大半だった。17時くらいから塾があるのかと思っていたが、よく聞いてみると、塾の時間は19時過ぎからであった。それまで家でどうやって過ごすのか、何時まで練習に出られるのかを一人一人と確認していった。すると、全員が最後まで練習に参加するようになっていった。不思議だが、塾がある日は早退することが当たり前になっていたのだ。
選手にどのような練習をしたいのかを聞くと、ノックだと答えることが多かったので、短時間で選手が気になっているプレーの確認のみノックをした。基本的なスキルを身につける必要があったので、練習時間の多くは、基本的なドリル練習、反復練習をくりかえし何度も行った。土日の試合では、投手を中心とした守備の確認、ランナー3塁の攻撃の確認を主な課題とした。
特に繰り返し行った練習をまとめると、次のようになる。
(攻撃)・ティーバッティング ・バント(1塁側、3塁側) ・ゴロ打ち
(走塁)・1塁(右足5メートル)リードからの盗塁 ・2塁(右足7メートル)リードからの盗塁
(守備)・ショートバウンド捕球 ・各ポジションからの送球練習
次回は、それぞれの練習でこだわったこと及び練習試合で確認をしていったことについて書いていこうと思う。
(2022.10.02 初稿執筆)
8.「結果」より「理想の打球」に
こだわった夏の大会前(旭中編第5回)
2022年4月に、現在の旭中に戻って中学校の教頭に就く以前の「充電期間中」、旭中野球部顧問時代に取材でお世話になった近藤さんから「コラムを書いてみませんか?」とお話を受けて、書き始めた不定期連載のコラムだったが、なかなか先にいかずに止まっていた。また、間が空いてしまった。
今回は、春の大会から夏の大会までに繰り返し行った練習について、どのようなことにこだわったのかを書いていく。第8回は、打撃についてまとめる。
(攻撃)
・ティーバッティング
ネットに向かって打つことよりも、野手に向かって打つことを多くした。「ロングティー」と「ショートティー」の2つを練習に取り入れた。「ロングティー」では、外野手の頭をライナーで越えて、遠くまで転がっていく打球を打つことをイメージさせた。2ベースではなく、3ベースを打つイメージである。「ショートティー」では、内野手の横をワンバウンドして速い打球が抜けていくイメージである。練習メニューを伝えるときに、「30分ロングをしたら、30分ショート」というように、これらの練習を混ぜていくことで、選手たちは自然とバットの出し方、体の使い方を覚える。打球をイメージして、そこに近づけていくことで、理想的なスイングに近づいていくと考えている。そのため、素振りはあまり行わない。数を振らせたいときは、素振りをするが、ボールを打つことをとにかく繰り返し行った。
・バント(1塁側、3塁側)
すべてバッターランナーも生きる意識で行った。1塁線、3塁線から内側1メートルにラインを引き、この間に転がすように指示をした。0ストライクでは、ファールでかまわない。1ストライクなら、少し内側に入れる。なるべくライン際に転がし、バッターも生きるバントをするようにする。これもティーバッティングと同じで、理想的な打球のイメージを皆で共有し、そこに近づけるようなバントを練習していく。不思議だが、イメージ通りのバントができた時は、だれが見ても正しいと思うようなフォームでバントをしている。バントが上手くなってくると、ランナー2塁で3塁側に転がすと、かなりの確率でセーフティーバントになる。1アウト2塁が、1アウト1・3塁になる。中学野球の場合、1・3塁は、盗塁をして2・3塁になる。そのため、1アウト2塁を作れると、1アウト2・3塁を作り、2点を狙えるという流れが自然とできてくる。
・ゴロ打ち
強い打球のゴロと高いバウンドのゴロ打ちを徹底して行った。強い打球のゴロは、ランナー3塁の前進守備の際に、野手の間を抜くイメージで打つ。ボールの中心をきちんととらえていく。また、高いバウンドのゴロは、ボールの中心より少し上を強く振り抜き、高くバウンドさせる。低めの球なら、右バッターは右ひざを折り、地面に叩きつけるように打つ。これらを徹底的に練習し、どのようなボールの時に、どのような打球が打てるのか、個々に覚えさせていく。
バッティングの指導をしていて思うのは、明らかにダメなことは指摘できるが、どうすれば良いのかの指導は難しいということである。よくバッティングセンターで、1球1球細かにアドバイスを送っている人がいる。私は、そのようにはできないと思い、結果にこだわるようになった。結果とは、ヒットかアウトかではなく、どのような打球になったかである。理想的な打球をイメージし、そこに近づけるために調整していくことで、その選手なりの正しいスイングが身についていくのではないかと考えている。また、その考えの根底には、私のような指導者が余計なことを言って、選手の可能性をつぶしたくないという思いもある。だからこそ、私自身が教えられない時は、積極的に他校の指導者に教えを乞うようにしていた。選手を具体的に指導してもらうこともある。その中で、私自身の引き出しも増えていった。
次回は、走塁と守備について書いていく。
(2023.06.02 初稿執筆)
9.「盗塁」と「ノーミス送球」
を自分のものに(旭中編第6回)
第8回に続き、夏の大会前に繰り返し行った練習のうち、走塁と守備のポイントについてまとめていく。
(走塁)
・1塁(右足5メートル)リードからの盗塁
右足5メートルの位置にラインを引き、必ずそこまで全員がリードするようにした。春までは、盗塁が少なく、1塁ランナーがいる場面でバントをすることが多かったチームである。リードが小さく、次の塁を狙う意欲は高くない。積極的に盗塁ができるチームになるように仕向けていった。リード幅は、足の運びのリズムで体にしみこませた。牽制死よりも、右足5メートルリードができないことを問題視しながら指導を進めた。徹底して取り組んでいくことで多くの選手がリード幅を広げ、帰塁が速くなっていった。
・2塁(右足7メートル)リードからの盗塁
3盗も積極的に仕掛けられるチームにしたかった。3盗が成功するメカニズムを伝え、実践を繰り返していった。
走塁の練習については、次の3つのことを日々の練習に取り入れ、ドリル的に繰り返した。
① 自分のタイミングでスタートを切り、スライディングでベースに到達するまでのタイムを計測する。
② 帰塁練習を繰り返し行う。
③ 3盗の動き(一次リード→二次リード→スタート→加速→スライディング)を繰り返し行う。
特に①を行うことで、ほとんどの捕手から、盗塁をすることが容易だということが理解できた。盗塁が失敗する時はどのような時か、きちんと把握することで、失敗を回避できる力がつく。
練習試合で試し、感覚的な理解を確かな理解へつなげていくことで、走塁の力がついていった。夏の大会時には、多くの選手がノーサインでスタートを切れるようになっていった。
(守備)
・ショートバウンド捕球
私はゴロ捕球の形をあまり教えない。硬式のように低い打球が少ない軟式野球では、バウンドのボールを処理する技術が特に求められる。多くの選手が勘で捕っているように思えるが、この点、繰り返し練習をして、確実に捕球できる力をつけたかった。ショートバウンドの練習は、主にアスファルトの上で行った。高くバウンドし、一定の方向にボールが転がっていくため、捕球練習には最適である。ボールを捕球する時は、親指→人差し指→中指→薬指→小指の順に握っていく。掌が上を向いているが、指を握りながら手の甲が上を向くようにする。その動きの中で、ボールの勢いを抑え、グラブの中に確実にボールを入れるようにする。また、ボールをグラブに入れる際は、目を切らないようにする。逆シングルの時は、小指から握っていき最後が親指になる。動きが逆になる。さらに、ボールを処理する時は、へその前で処理するようにアドバイスする。毎日のルーティンにしていくと、ショートバウンド捕球が上手くなっていく。ショートバウンド捕球が上手くなると、ボールを体で止めるというプレーがほぼなくなっていく。グラブで捕るようになるからだ。グラブで捕るようになると、タッチプレーのアウトが増えていく。
・各ポジションからの送球練習
もともとキャッチボールの中で様々な動きをさせるようにしている。キャッチボールについては、また別の回で書くことにする。
守備の練習では、捕球と送球と分けて練習をする。ノックをすると、たいていがこの2つを混ぜる形になるが、私の場合は、送球練習の時間を長くとっている。捕球は、相手の打球やグラウンドの状況によって難易度が変わってくる。しかし、送球については、手に持ったボールを決まった距離の相手に投げるので、いつでも同じようにできなければならない(できるようになる)。例えば、サードの選手は、定位置に守り①正面②ライン際③ショート寄り、前進守備をして④バント処理⑤正面⑥ライン際⑦ショート寄り……などいくつかの決まった位置からファーストへ投げる練習を繰り返す。ノーバウンドで投げた方が良いのか、ワンバウンド投げた方が良いのか、練習を繰り返す中でアウトがとれる確率が高いことを選んでいく。また、ファーストへの送球の高さも3段階ある。余裕があるときは、顔あたりの高さに、ファーストが次のプレー(ホームに投げるなど)が予想される場面では、胸の高さに、間一髪のプレーでファーストが足を伸ばして捕球する時は、膝の高さに投げる。この点も繰り返し練習をしていく中で、何が確率が高いのかをそれぞれの選手が理解し、選んで身につけていく。
今までの指導の中で、送球ミスが出るチームはほとんどなかった。それは、ワンバウンドで投げる、ノーバウンドで投げる、どのように足を運ぶ……等、繰り返し繰り返し練習をして、大会で練習通りのプレーをすることに意識を注いでいるからだ。
第8回、第9回で書いたことを中心に日々の練習を行い、土日の練習試合で試していった。次回は、練習試合で確認していったことについてまとめていく。
(2023.06.08 初稿執筆)